沼落物語(ぬまおちものがたり)

今は昔、穴の民と言ふ者ありけり。都内に出向きて演技を浴びつつ、よろづの事で狂いけり。名をばヲタクのまつきとなむ言ひける。モリミュの中に演技光る男なむ一人ありける。あやしがりて、寄りて見るにシャーロック・ホームズ光りたり。それを見れば、三十九歳ばかりなる人、いとうつくしうて居たり。まつき言ふやう、
「われ、朝ごと夕ごとに見るモリミュの中におはするにて知りぬ。『推し』となり給ふ人なめり」
とて、ブロマイド手にうち入れて、家へ持ちて来ぬ。額縁にあづけて眺む。うつくしき事かぎりなし。いと麗しければ、過去グッズも揃え、額縁にあづけて眺む。

ヲタクのまつき、この役者を推す後にチケット取るにグッズも増えて、よごとに、出費が重なりぬ。かくて、まつきやうやう貧しくなりゆく。この役者、推すほどに、まつきの残業手当すくすくと大きになりまさる。三月ばかりになる程に、よきほどなる額になりぬれば、棚購入などして、グッズを並べ円盤を鑑賞す。ハン落にておひねりを渡し、いつきかしづき推すほどに、この役者のかたち演技清らなること世になく、家の内は暗きところなく光満ちたり。まつき、心地あしく苦しき時も、役者を見れば苦しき事も止みぬ。腹だたしきことも慰みけり。

まつき、『推し』が二人になること久しくなりぬ。勢い猛の者になりにけり。一方CSに番組もちぬれば、スカパーを呼びて契約す。もう一方、ユニットを結成し旗あげすれば、足繁く通う。このほど数ヶ月うちあげ遊ぶ。よろづの遊びをぞしける。まつき、友をうなきらはず呼び集へて、いとかしこくあそぶ。

 

スペシャルサンクス:すみださん